ラベル 筑波大学 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 筑波大学 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2024年4月3日

知識と智慧


新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。今頃は、新しく始まる大学生活に期待と不安が入り混じっている頃ではないかと思います。私自身、20年以上前、大学に入学した際の頃、何を考えていたのかを思い返すと、何事にも全力投球をしようとしすぎて、肩に力が入りすぎていた事を思い出します。入学式の日、学長を始めとして、何人かの方が貴重な祝辞をいただいたと思うのですが、申し訳ないことに、今では全く記憶に残っておりません。何となく毎日、楽しそうだという理由だけでキャンパスに行き、「とりあえず、やってみよう」という精神で突き進んできました。キャンパス内で偶然なのか必然なのか分からない出会いが様々あり、結果として楽しく充実した大学生活が過ごせたことは間違いないかなと思っております。そのような多様な機会は一度には処理できない程の情報量があり、それを全部見てからでないと決断できないとなると、心身共に疲れてしまうのではないかと思っております。自分自身のアンテナを常に張り巡らせながら、自分自身の直感にかけてみるというのも良いのではないかと思っております。

さて、私自身、決して模範となるような学生ではなかったということは、当時、周囲にいた人たちが大勢証言してくれると思いますが、大学の授業で何を学ぶことが重要なのかということを教壇に立つようになってから考えるようになりました。大学院生の頃、担当させていただいていた1年生の物理学(力学・電磁気学)の演習では、今となっては難しい骨のある演習問題ばかりをやってもらっていたような気がします。骨のある演習問題を研鑽することで、「1人では解けない問題がある」ということを具現化することを心掛け、それをクラス内の人たちと共有することによって、自然とグループワークを行うことを推奨してきました。これは、前職の群馬大学の1年生の物理学(力学・電磁気学)の授業においても基本的には同じ方針でしたが、コロナ禍ということもあり、「一緒に学ぶ」ということが難しい時期であったので、ブレイクアウトルームなどを多用して工夫をしていた思い出があります。しかし、前職の授業方法を振り返るうちに、「何故、物理学という科目を教えなければならなかったのか?」という疑問に再度ぶつかりました (過去の疑問はこちらより)。大学教育における教養というのは「物理学」という学問に対する「知識」を身につけることだったのか?という疑問です。年々増加してきている「答え」を追い求めてしまう体制であったり、先端的なものを追いかけようとする態度は、どうしても「知識」を手に入れたいという欲求に似ている気がします。ただ、「知識」は常にアップデートされ続けていくものであり、そのいたちごっこを続けなければなりません。そのようなすぐに古くなってしまう「知識」を膨大にかき集めても、大学卒業時に何が残るのか?という疑問は尽きません。私自身が学生時代より「知識」の生産スピードは格段に上がり、頭の中をパンパンにさせて卒業させていくことが重要なのでしょうか?専門職に就き、大学で得た「知識」がすぐに役立つというキャリアパスもあるでしょうが、大学で学ぶ大半の学問分野は「知識」がすぐに役立つということは稀有なのではないでしょうか?そこで、大学の中で学ぶべきものは「智慧」なのではないか?と思うわけです。授業というコンテンツを通じて、大学教員は自分自身の考え方を表現する場を与えられ、その考え方・学問に対する姿勢を見せていくことが重要なのではないかと思います。そして、これまでに学問を築き上げた偉人たちの考え方を伝達することで、「知識」ではなく「智慧」を授けることが出来るのではないか?と思うに至りました。ただ、「知識」は一方的に1人でも会得することが出来るとは思いますが、「智慧」を1人で会得することは私は非常に難しいのではないかと思っています。そのために、大学には広大なキャンパスがあり、その中で切磋琢磨することでしか会得できない「智慧」が詰まっているのではないかと感じております。

改めて、大学生になった皆さん、入学誠におめでとうございます。大学生活を楽しんでもらえればと思います。

追伸:
筑波大学生で私と話をしてみたいという方がいらっしゃいましたら、気軽に第3エリア 工学系学系F棟 (第3エリア前のバス停の一番高い建物) 911号室にお越しいただければと思います。

2023年10月2日

筑波大学に赴任しました

本日、筑波大学システム情報系の吉瀬系長から辞令をいただきまして、筑波大学システム情報系に着任しました。今後とも皆さまにはお世話になりますので、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします。

着任日初日の昨日は、創基151年筑波大学開学50周年の日でした。51年目の歩みを迎える大学に着任できたことで、また開拓者としての気持ちで筑波大学での研究・教育・運営を行っていく予定です。私自身が最も驚いていますが、物理系の所属ではなく、システム情報系情報工学域というところの所属になり、学部生は情報学群 情報科学類から。大学院生は 理工情報生命学術院 システム情報工学研究群 情報理工学位プログラムという所属になります。研究室は「物理情報システム研究室 (Physico-Informatics and Systems Laboratory)」と名付けました。研究室は誰でもいつでもウェルカムですので、遊びに来てください。


基本的に理論物理学者なのに、何故、システム情報系の所属になったのかは本当に不明ですが、計算機の歴史を辿ってみると、少しはそのヒントがあると思い、「計算機と物理学」の間を検討してみたいと思います。

私は東京工業大学で学生を送っていた時代にマサチューセッツ工科大学(MIT)に留学しました。学科は機械工学科でしたが、MITの古い学科の中に電気工学科の周辺では、過去、Vannevar Bush というアナログ計算機の研究者がいました。素晴らしい研究経歴もさることながら、米国科学財団 (NSF) を設立したということでも知られております。更には、サイバネティクスの産みの親である Nobert Wierner と情報理論の産みの親である Claude Shannon を見出したことでも有名で、世界で一番有名な修士論文と称される現在の「デジタル回路の基礎」(指導教員はHitchcock 型輸送問題で有名なFrank Lauren Hitchcock) がその後のデジタル計算機の誕生へと導いていきました。最初に出来た電子式デジタル計算機の最初のアプリケーションとして知られているのは、John von Neumann が平方採中法と呼ばれる「疑似乱数」で、それが「モンテカルロ法」の原点でもあります。これは計算機革命で起きた「計算機の中でランダムを再現できる」手法だったのです。このJohn von Neumann が電子式デジタル計算機である ENIAC の応用事例として有用だと考えた「気象予報」に対して、貢献してきたのがノーベル物理学賞受賞者の真鍋叔郎先生です。真鍋叔郎先生は正野重方先生のお弟子さんでした。その正野重方先生を気象の道に勧めたのが、物理学者である寺田寅彦先生であるという記録があります。

もう一つの系譜として、寺田寅彦先生に憧れをもって集まった「サイバネティクス研究会」の面々は、その後、「ロゲルギスト」と名前を変え、「物理学の散歩道」を執筆することとなりました。そのメンバーの一人は、物理学者の高橋秀俊先生でパラメトロン計算機を発明された高橋秀俊研究室の学生の後藤英一先生とともに、日本の計算機研究者のパイオニアとされています。

また、Vannevar Bush と共にマンハッタン計画に関わった John Wheeler の系譜は、「情報と物理」の関係から産まれた物理の概念が沢山あり、その一つにかくまっていた物理学者 David Deutsch Charles Bennett の可逆計算機の話を聞き、「間違った物理法則を適用している」と思ったを契機に「量子計算機」のアイディアを想起したという歴史があります。

こうやって歴史を振り返ってみると、寺田寅彦流の物理学を展開しつつ、高橋秀俊のような挑戦者がおり、John Wheeler のグループを中心とした議論が発展し、次の計算機革命を起こそうとしております。そのため、物理学者がシステム情報系にいるというのは不自然ではなく、むしろ必然だったのではないかとさえ思えてきます。

私は、師匠の細谷暁夫先生の学術的師匠である内山龍雄先生が留学していた John Wheeler のような研究室を展開したいと思っており、現代流にアレンジされたものを展開していきたいと思っております。

また、量子電磁力学で発展を残してきた朝永振一郎先生や固体でトンネル効果の実証をなされた江崎玲於奈先生が学長を務めてきた大学に身を置き、学際的な研究を行えることは非常に嬉しいことです。中でも、江崎玲於奈先生が残された「Five Don't Rule」は忘れないためにも最初に書いておきたいと思います。

  1. Don’t allow yourself to be trapped by your past experiences.
  2. Don’t allow yourself to become overly attached to any one authority in your field – the great professor, perhaps.
  3. Don’t hold on to what you don’t need.
  4. Don’t avoid confrontation.
  5. Don’t forget your spirit of childhood curiosity.
今後、様々な困難が待ち受けていると思いますが、これまで培ってきたものを活かしながら前に進んでいきたいと思っています。そのためには、皆さんの協力が不可欠です。是非ともよろしくお願いします。