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2023年9月30日

群馬大学を退職するにあたり・・・

既にお知らせさせていただいた方もいらっしゃいますが、群馬大学理工学府理工学基盤部門の准教授として、2021年4月1日に着任し、本日をもって退職いたします。初めての地方国立大学に赴任し、更に主に初年次教育に携わってきました。在任中、群馬大学の皆さまには本当にお世話になりました。気持ちよく、スムーズに送り出していただいたことに感謝しております。


様々な大人の事情が重なり、基本的には群馬大学荒牧キャンパス内に研究室は主宰していたものの、研究室配属の学生さんは1人もおりませんでした。更には、インターンシップの学生さんも誰も採用しませんでしたし、リクルートすることもしませんでした。


群馬大学在任中は、まとまったアウトプットがなく、何をしていたのだと言われそうですが、基本的には大量に本を買い込み、黙々と勉強していました。基本的には1人で研究を進めなければなりませんでしたので、何かの研究に本来は没頭するのがセオリーだったと思うのですが、着任した当時、プロジェクト研究から外れて、久々にPIとして研究室を整備することになったので、私の指導教員である細谷暁夫さんが
「定職を得た研究者が胸の高まりも無く、ただ論文の数を増やし、科学研究費を獲得して行くことの方がいいのだろうか?冒験者の大部分は失敗し、ごく少数のものが新しいコンセプトを切ち開くのではないだろうか?私には失敗を覚悟で冒険することが、僥倖によって定職を得た科学者の道徳的義務とさえ思う。」
と定年退職をする際に記事に残していたのを思い出し、ただただ漫然と研究していくことはやめようと思いました。ただ、テニュアトラック制度としての採用であったため、本来は「定職を得た研究者」にはなっていませんでしたが、何かしら新しいことをやっても研究は出来るだろうし、5年の期間中には何か出来るだろうと思いました。

群馬大学在任中にプロジェクトとしては以下のようなもので、今まで研究したことのないものが多かったような気がします。
  • 量子乱数の研究:JSTさきがけ「セキュア量子乱数に基づくハイブリッド量子秘密計算基盤の創出」の研究課題ももとで本来はもっと進めるべきだったと思いますが、研究課題が採択された慶応義塾大学時代とは状況が異なり、思うようには研究が進まなかったと思っています。在任中の2022年のノーベル物理学賞の受賞理由が「ベルの不等式の破れ」であり、「ループホールフリー」のベルの不等式の破れは実証されていますが、更なる研究として「真性乱数」の存在を見破らなければなりません。そのため、まだまだ研究の余地が残されているように思えます。これは今後、引き続き研究をしていきたいなと思っています。
  • 量子品質工学の研究:JSTさきがけ「セキュア量子乱数に基づくハイブリッド量子秘密計算基盤の創出」の研究課題から派生された研究だと思っていて、量子情報技術を発展させる上で重要なコンセプトだったと思います。桐生高等工業学校(現、群馬大学理工学部)出身の田口玄一博士のように品質工学の発展形を目指していました。まだまだ時間がかかるなぁ・・・というのが正直な感想です。
  • 原子核物理と量子情報科学の融合:原子核物理分野で第一原理計算をやられている阿部 喬さん(現、慶応義塾大学量子コンピューティングセンター特任准教授)に学生時代に東工大の研究室で大変お世話になったことをきっかけに原子核物理屋さんと議論していました。理化学研究所にある RIBF を用いた実験プロジェクトに誘われ、あれよあれよという間に一緒に実験を行っていました。まだ何も論文を書いていませんが、そのうち原子核物理と量子情報科学が融合できるような研究が出来たらよいなぁ・・・と思っています。その意味で、量子力学黎明期の発展を支えてきた原子核物理を勉強出来たのはとっても良かったと思っています。この際、初めて組織として関与したかったので、同年代で研究室を主宰していた加田渉准教授(同じく、今日で退職。)と鈴木真粧子准教授に関わっていただきました。また、機器分析センターにはお世話になりまして、特に技術職員の坂本広太さんにはお世話になりました。研究上では群馬大学在任中、一番時間を割いていたかもしれません。笑 それが故に、色んなものとの繋がりが分かってきて、今後に対して、何をしなければならないのかという道筋も見えてきました。
  • 機械学習の応用研究:実験データにこれまで以上に積極的に触れる機会が多くなってきましたので、そのデータ解析手法として機械学習で使われている手法を沢山勉強し、それを応用する際の問題点が何であるのかを調べてきました。物理のような何かを解明していくタイプの研究ではなく、いささか場当たり的な感じもしましたが、純粋な数理的な理論体系を実データに応用していくことの難しさが何であるのかということを実感しました。こんな遊びから生まれた研究論文は2報 (Scientific Reports, Annalen der Physik) まとめられています。
  • 物理教育の研究:ひょんなことがきっかけで、大学の物理教育誌に「はじめての講義」という欄に記事を執筆することになりました。着任当時、まだコロナ禍の真っ只中であったことを良いことに、基本的にはオンライン授業で学ぶ意義を考えたりしていました。教授法も手探りでしたが、予備校でもなく、大学の従来の教育法でもないものに挑戦してきました。そして、模索していく中で、「大学の物理教育は、教育の担い手は研究者で自分自身の研究対象にはデータをとったりと論理的・定量的に分析するためのツールを考えるにも関わらず、教育は感覚的・理念的になってしまうのは何故だろう」と思うようになり、授業アンケートなどを積極的に活用しながら、授業改善を行うというより前に、授業の在り方・教養の在り方を定量的に分析していくことが重要であろうと思うに至りました。認知心理学の知見などを取り込みながら、どういう授業スタイルが教員にも受講している学生にもハッピーな形になりえるのかを「研究しながら」考えていました。
こんなに統一感なく研究が出来たのは、地方国立大学で特定のテーマを決めず、研究室の学生のテーマを考えることなく楽しめたからだなぁ・・・と思っています。本当にメリットだったと思っています。また、基本がオンライン授業であったからこそ、週に1度くらいしかコロナ禍後もオフィスには行かず、引越さなかった家の近所の武蔵小杉オフィスを構えて、日々、色々な試行錯誤を行ってきました。このような体制を許していただいた皆さんには感謝しております。お陰様で、最低限ではありますが、研究は進展したと思っていますし、群馬からどこかに出張することは非常に大変ですが、武蔵小杉からであれば、気楽に出張できました。また、コロナ禍を通じて家のあった元住吉の住民の皆さんと積極的に交流するようになり、私が知らなかった世界を次々と見せてもらいました。結局、慶応義塾大学着任時から住み始めたので、合計5年半住んでいました。商店街文化も根付いていて、元住吉は本当に「住みよい」街でした。ありがとうございます。

また、一概に「地方」と言っても、交通のアクセス状況によって、事情が様々に異なるということも理解でき、統一的な「地方大学の問題」というものは、あまり存在していないのではないか?と思いました。でも、予算が削減されている問題を肌で実感し、新しいことを動き出そうにもゴミが残されたままで出来ない問題があったりと、今まで以上に何をしていくことが良さそうなのか、そして、持続可能なスタイルはどのようなものであるのかということを考えてきました。今まで、国立の研究機関、中央の国立大学、中央の私立大学、地方国立大学と赴任してきましたが、それぞれに問題は山積していますが、それぞれに楽しみながらやってきました。もちろん、今回の群馬大学も非常に楽しくやらせていただいかと思います。ありがとうございました。色々な方々に支えられ、プライベートには色んな事があった期間ではありましたが、楽しめたことには感謝しかありません。ありがとうございました。そして、明日から新しい職場ですが、今後ともよろしくお願いします。

2020年5月2日

自己紹介

はじめまして、理論物理学者の 鹿野 豊 と申します。これから1人の科学者の目線で雑談するようなブログを書いていきたいと思います。
  • 何故、このブログを始めたのか?
 今は大学教員をしていますが、大学教員の半分の仕事は「研究者」としての顔です。ちなみに残り半分は「教育者」としての顔です。「研究者」としてのアウトプット形態は、昔より「本を執筆する」か「論文を書くか」ということでした。文章の形で書き残すことで、当時獲得した「知識・知恵・概念」を他に伝授してきた経緯があります。一方で、「大学」のような出会いの場に人が集めれなくなってしまった今日、自分自身が考えていることを書き残していこうかなと思い立ち、このブログを始めてみました。1週間に2回くらい更新できればいいなと思っています。
  • 今までどのような研究をしてきましたか?
 私の研究者としての目標は、「自然現象はどこまで観測出来るのか?」ということを定量的に明らかにすることです。特に、「時間は測定可能か?」ということに興味をもっています。
 大学院生時代は、「量子情報科学」と言われる分野の中で、量子力学という法則を基礎として、どこまで精密に量子力学的に振る舞う現象は測定できるのか?ということを目標にする「量子測定理論」と呼ばれる分野を研究していました。更には、ランダムウォークの量子力学的な模写で始まった「量子ウォーク」と呼ばれる分野に出会い、数理物理的なアプローチから「量子ダイナミクス」を模写するとは何かということを探索してきました。学位取得後、量子ウォークや量子測定理論は自然科学を解き明かすための理論なのか?と疑問に思うようになり、量子測定理論で培った道具だてを用いて、「光物性理論」と呼ばれる分野で光の言葉で自然現象を解き明かすということをやってきました。その中で、異なるタイムスケールを記述する理論体系があまりないこと、実験的な道具が揃っていないことに気づき、「ハイブリッド量子計測科学」と個人的には呼びたい、複数の測定対象に対して精密巧緻な方法を開拓していきたいと思っています。このような手法を開拓していくと、測定データが非常に膨大となり、「実データを取り扱う手法」を開拓する必要に迫られてきました。そのため、理論的な枠組みや統計的な手法を用いて、現象・データを「タンジブル (tangible)」 にするための手法論を研究しています。大学院時代に「量子情報科学」を研究していたことから、量子計算機の理論的な側面での開発に携わることになり、「乱数生成方法」を用いた量子ハードウェアの評価方法の研究を開始しました。そうやって研究している内に、「乱数とは何か?」という根本的な疑問にぶち当たり、現在は「量子乱数」自体も研究を行っています。
 一見、研究対象がフラフラしているような感じがしますが、「時間」も「乱数」も数学的には記述出来るけれども、どのように検証して良いかが分からないものを対象に「どこまで検証可能か?」という視点で研究を行っています。そのために、解析するための道具がなければ、独自に開拓していくというスタイルです。
  • どのような経歴ですか?
以下に私の経歴を書きます。産まれてから 東京→大阪→東京→宝塚→東京→東京→ボストン→東京→名古屋→東京→川崎→つくば と引っ越してきています。
2002年 東京都立国立高校卒業
2003年~2007年 東京工業大学理学部物理学科
(入学時は1類。4年次は宇宙物理学理論研究室に所属)
2004年~2007年 4大学連合コース(東京工業大学・一橋大学)文理融合コース
2007年~2009年 東京工業大学大学院理工学研究科基礎物理学専攻 修士課程
宇宙物理学理論研究室(指導教員:細谷 暁夫教授))
2009年~2011年 東京工業大学大学院理工学研究科基礎物理学専攻 博士課程
(宇宙物理学理論研究室(指導教員:細谷 暁夫教授)。日本学術振興会特別研究員(DC1))
2009年~2011年 マサチューセッツ工科大学機械工学科 客員学生
(ホスト研究者:Seth Lloyd 教授)
2011年~2012年 日本学術振興会特別研究員(PD) (DC1 より切替)
(受入研究機関:東京工業大学大学院理工学研究科)
2011年~現在 チャップマン大学量子科学研究所 准メンバー
2012年~2017年 自然科学研究機構分子科学研究所 特任准教授
(若手独立フェロー制度での採用)
2015年~2016年 東京工業大学応用セラミック研究所 客員准教授 兼務
2017年~2018年 東京大学先端科学技術研究センター 特任准教授
2017年~2018年 JST ERATO中村巨視的量子機械プロジェクト 研究推進主任 兼務
2018年~2021年 慶應義塾大学大学院理工学研究科 特任准教授
2021年~2023年  群馬大学大学院理工学府 准教授
2023年~現在 筑波大学システム情報系 教授

東京大学先端科学技術研究センター(先端研)にて撮影